『和菓子の文生(ぶんき)』の名は、先代の浪岡文雄(ふみお)さんの名前を元に付けられました。先代の文雄さんは、盛岡市内の有名和菓子店で修行を積み、和菓子技能一級を取得した熟練の職人でした。創業当時からファンの多い、文生のあんこも文雄さんが創りあげたと言います。
しかし、二年後に文雄さんが他界され、奥様の悦子さんがお店を引き継ぐ事になります。元々は別の職種に就いていた悦子さん。文雄さんが創りあげた、昔ながらの懐かしいお菓子の味を守りたいという想いから、まったく経験したことのない菓子作りへ取り組むことを決意しました。
本格的な菓子作りを学ぶため、悦子さんは文雄さんのもとで約半年間の修行を積みます。菓子作りの工程における作業の仕方や、火加減の微妙な感覚をつかむのに苦労を重ねたといいます。
苦心の末に、文雄さんが遺したあんこと、全15種類に及ぶ菓子の味を受け継ぎ、文生(ぶんき)は再スタートをしました。「私は菓子作りに関しては素人」と謙遜する悦子さんですが、先代の味を忠実に守り続けながら、独自のアレンジを加えた菓子作りにも余念がありません。
文生(ぶんき)には和菓子だけに留まらない、洋菓子の要素も取り入れた、和洋折衷とも言えるお菓子が数多く並びます。
その魅力的なお菓子は、地元岩手県のテレビ・雑誌などのマスメディアに取り上げられることも多く、2012年春にはJR東日本の雑誌「トランヴェール」に、桜をイメージしたお菓子が掲載されました。
「新しい菓子を作りたいという気持ちが、原動力になっている」と悦子さん。そのきっかけは、文生(ぶんき)のお菓子に注目した、滝沢市の農家さんからの要望でした。「滝沢市に住んでいるからこそ、滝沢市の野菜や果物を使った菓子を作り続けていたい」と言います。
果物を使った菓子作りは容易ではありません。原材料の品質や、配合の割合、食感などの細かい調整が難しく、長年の勘が必要となります。
こうした開発を重ね、滝沢市の名産品であるスイカとリンゴを原料とした「スイカゼリー」と「りんごケーキ」。ブルーベリーを練り込んだ「ブルーベリーまんじゅう」「ブルーベリーどら焼き」など、数多くの作品を創りだしてきました。
「これからもお客様に喜ばれる菓子を作っていく」と意欲的に語る悦子さん。今年で11年目を迎える、和菓子の文生(ぶんき)。創業以来の味を守り続けながら、新たな菓子作りを続けていきます。